一定期間更新がないため広告を表示しています
書評:ラジスラフ・フクス「火葬人」(松籟社) ※猫町倶楽部月曜会ツアー豊崎由美回
- 2014.06.09 Monday
- 読書
- 07:39
- comments(0)
- -
- -
- -
- by 中宮崇
【42】「火葬人」
彼らは悪魔だったのか?
ヨーロッパがアドルフ・ ヒトラーによる災厄から逃れて70余年の歳月を経た現在でさえ、 世界中の人々がそう問い続けている。
なぜドイツ国民は彼を熱狂的に支持し、侵略、虐殺、 破壊に手を貸したのか?
「やつらは悪魔だったのさ」
そう言い切るのことができるなら、この世界は実に単純だ。 そしてこの国には、自信満々にそう断言し、彼らの言うところの「 悪」を成敗する族が何と多いことか。 自ら正義であることを露程も疑わぬそうした連中にとって、 悪とはあたかも天から降ってきた恐怖の大王のごとき、 敵対すべき外的な災厄に過ぎない。
アニオタにとっては、そのような幼稚な世界観は既に74年の「 宇宙戦艦ヤマト」によって葬り去られている。 第一話で敵ガミラス人を「悪魔め!」 と罵ったヤマトのクルー達は、 最終的に和解よりも戦いを選んでしまった自らを恥じた。
近年の作品ではさらに進み、11年放映の「魔法少女まどか☆ マギカ」においては、悪はどこか他のところにあるのではなく、 自分自身の中に存在するのだと主張するまでになる。いや、 そもそも善悪という二元論さえほぼ捨て去ってしまっているのが、 現在のアニメにおける潮流と言える。
ヤマトより7年前に発表された「火葬人」は、 現在の我々アニオタにとっての常識を先取りした先進的作品である 。
第二次世界大戦前年の1938年、 ナチスがドイツ系住民の保護を口実に隣国チェコスロバキアに圧力 を加えたいわゆるズデーテン危機の頃から物語は始まる。 チェコで火葬場の職員を務める善良な一市民コップフルキングルは 、 ナチスの影響が強まりやがてチェコ全土がドイツに吸収されて行く のと歩調を合わせるかのように、 忠実なナチ党員としてユダヤ人虐殺に手を貸していくことになる。
そんな彼は、不思議なことに最後まで善良である。 ユダヤの血を引く妻と息子に自ら手をかけるのも、 ユダヤ人である友人知人を密告するのも、 邪悪さや残虐性からではなく、 彼らの行く末を案じての善良さのためである。 家族殺しや大量虐殺にまで手を染めることは、 少なくとも善良な彼の中では何ら矛盾は存在しないのだ。
これに対し、 主人公をナチス党員に勧誘する友人ヴィリの姿に戸惑う読者は少な いだろう。 ヴィリが入党した大きな理由は良い生活と名誉を得ることである。 私欲のためにユダヤ人を踏み台にしたのだから、 実にわかりやすい。しかしコップフルキングルは違う。 彼にはそんな浅ましい欲は無い。 結果はともかく少なくとも動機だけは、 あくまで善良なものなのだ。そこにこの作品の不気味さがある。
こうした不気味さ故、物語は終始ホラーじみている。「劇場版 魔法少女まどか☆まぎか[新編]叛逆の物語」 でも見られたような、 登場人物の全てに微妙な違和感が見られるのにすぐには何も事件が 起こらない居心地の悪い展開。 そしてそうした伏線がやがて破局へと繋がる。 しかしそれは天から降ってきた偶然の破局ではなく、 あくまでも日常の延長線上にある破局なのだ。
善良な一市民を虐殺者にしたものは何だったのか。 我々自身が同じ道を歩まぬためには何が必要なのか。 現代のアニメ作品においても問われ続けているテーマについて、 半世紀前に鉄のカーテンの向こうで生きた作者はいかに考えたのか 思いを巡らしてみてはいかがだろう。
想定媒体: アニメージュ
彼らは悪魔だったのか?
ヨーロッパがアドルフ・
なぜドイツ国民は彼を熱狂的に支持し、侵略、虐殺、
「やつらは悪魔だったのさ」
そう言い切るのことができるなら、この世界は実に単純だ。
アニオタにとっては、そのような幼稚な世界観は既に74年の「
近年の作品ではさらに進み、11年放映の「魔法少女まどか☆
ヤマトより7年前に発表された「火葬人」は、
第二次世界大戦前年の1938年、
そんな彼は、不思議なことに最後まで善良である。
これに対し、
こうした不気味さ故、物語は終始ホラーじみている。「劇場版 魔法少女まどか☆まぎか[新編]叛逆の物語」
善良な一市民を虐殺者にしたものは何だったのか。
想定媒体: アニメージュ
- calendar
-
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30
- PR
- selected entries
- categories
-
- アニメ (6)
- ゲーム (5)
- ライティング倶楽部作品 (6)
- 身長体重バイタル等 (7)
- 読書 (14)
- 日記(ブログ引越しの11年6月以降) (8)
- 文化 (7)
- archives
-
- July 2019 (1)
- August 2014 (2)
- June 2014 (1)
- May 2014 (4)
- January 2013 (20)
- December 2012 (32)
- November 2012 (31)
- October 2012 (34)
- September 2012 (33)
- August 2012 (37)
- July 2012 (32)
- June 2012 (31)
- May 2012 (31)
- April 2012 (32)
- March 2012 (36)
- February 2012 (32)
- January 2012 (37)
- December 2011 (32)
- November 2011 (34)
- October 2011 (33)
- September 2011 (34)
- August 2011 (33)
- July 2011 (31)
- June 2011 (30)
- May 2011 (32)
- April 2011 (34)
- March 2011 (73)
- February 2011 (33)
- January 2011 (44)
- December 2010 (31)
- November 2010 (39)
- October 2010 (38)
- September 2010 (37)
- August 2010 (31)
- July 2010 (31)
- June 2010 (31)
- May 2010 (36)
- April 2010 (32)
- March 2010 (31)
- February 2010 (33)
- January 2010 (34)
- December 2009 (33)
- November 2009 (33)
- October 2009 (32)
- September 2009 (31)
- August 2009 (37)
- July 2009 (27)
- June 2009 (32)
- May 2009 (39)
- April 2009 (34)
- March 2009 (32)
- February 2009 (29)
- January 2009 (33)
- December 2008 (32)
- November 2008 (33)
- October 2008 (35)
- September 2008 (36)
- August 2008 (44)
- July 2008 (46)
- June 2008 (50)
- May 2008 (60)
- April 2008 (41)
- March 2008 (30)
- February 2008 (37)
- January 2008 (34)
- December 2007 (35)
- November 2007 (39)
- October 2007 (51)
- September 2007 (56)
- August 2007 (56)
- July 2007 (58)
- June 2007 (60)
- May 2007 (63)
- April 2007 (63)
- March 2007 (63)
- February 2007 (56)
- January 2007 (61)
- December 2006 (65)
- November 2006 (64)
- October 2006 (79)
- September 2006 (87)
- August 2006 (68)
- July 2006 (63)
- June 2006 (66)
- May 2006 (64)
- April 2006 (21)
- February 2006 (19)
- January 2006 (61)
- December 2005 (38)
- November 2005 (57)
- March 2005 (3)
- February 2005 (14)
- January 2005 (20)
- September 2003 (1)
- July 2003 (38)
- June 2003 (15)
- May 2003 (14)
- April 2003 (50)
- March 2003 (60)
- February 2003 (23)
- recent comment
-
- バカ親の、所に生まれる、子の不幸
⇒ おめでとう (08/19) - マーチン・ファン・クレフェルト「補給戦」(中公文庫)覚書2
⇒ B.B (08/10) - またNEWS23で膳場降ろしの愚行
⇒ かなぶん (02/06) - トマス・ピンチョン「競売ナンバー49の叫び」が難解だとの叫び4
⇒ 中宮崇 (02/06) - トマス・ピンチョン「競売ナンバー49の叫び」が難解だとの叫び4
⇒ みちこ (02/06) - ライティング倶楽部第四回(正式には第三回)はエア参加多数
⇒ 中宮崇 (01/26) - ライティング倶楽部第四回(正式には第三回)はエア参加多数
⇒ ”読書強制者”(エンフォーサー)こと、光の使者 (01/25) - 今年(昨年)のまとめ3 2011年アニメが危険と思うこのごろ その2
⇒ かなぶん (01/07) - 今年(昨年)のまとめ3 2011年アニメが危険と思うこのごろ その2
⇒ かなぶん (01/06) - 昨日見たもの 昨日のかきこ
⇒ 中宮崇 (12/06)
- バカ親の、所に生まれる、子の不幸
- profile
- search this site.
- mobile